ビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる
著者(編集者):ジム・コリンズ
出版社:日経BP社
打ち崩された神話、1.「大混乱する世界で成功するリーダーは大胆であり、進んでリスクを取るビジョナリー」、2.「刻々と変化し、不確実で混沌とした世界では卓越する企業はイノベーションのおかげである」、3.「脅威が押し寄せる世界ではスピードが大事。速攻、そうでなければ即死ということ」、4.「外部環境が根本的に変化したら自分自身も根本的に変化すべき」、5.「成功を達成した偉大な企業は多くの運に見舞われている」
● 南極探検隊あなたは到達全員生還のアムンゼンか全員凍死に終わったスコットか
アムンゼンは20代のとき、航海士免許取得のためスペインまで2000マイルもの移動、馬車、海路、鉄道で行くことができるが体力づくりに備え自転車を選んだ、探検中の非常食として有用かどうかを知るためイルカの生肉を食した、極寒の世界での数百年の生活の知恵を知るためにエスキモーへ弟子入りをし移動には犬とそりを覚え、エスキモーが常にゆっくり動く理由は汗をかかなくさせるためであること、通気性と防護性に優れている衣服など、、多くを学んだ。アムンゼンの哲学は1.「予期せぬ嵐に見舞われて「初めてもっと体を鍛え持久力をつけておくべきだった」と気付いても遅すぎる」、2.船が遭難して初めてイルカの肉を生で食べれるかと考えても遅すぎる、3.南極探検隊に加わってからスキーと犬を使いこなせるようになりたいと思っても遅すぎる。常日頃からあらゆる自体を想定して準備を怠らないのがアムンゼンである。
しかし、スコットは違った。事前の備えを充分にせずに、馬と雪上自動車を選びんだ数日後にはエンジンは故障し、馬は汗の氷が体を覆いつくし、更には食べる草がないことに気付き使い物にならず、数日にして人力に頼らざるを得なくなった。
アムンゼンは出発時に隊員5人に対して3トンの食料を積んだ、スコットは隊員17人にたいし1トンの食糧で臨んだ。
アムンゼンは標高計測器を4台持込んだのにたいし、スコットは1台、アムンゼンは常に不測の事態に備えた。
アムンゼン隊は当初計画に書いたとおり1月25日ベースキャンプへ無事帰還した、スコット隊は3月中旬食料が底をつき、アムンゼンにも同じく襲った天候を恨み、疲弊し、意気消沈していた。8ヵ月後イギリス隊が補給所まで10マイル弱の地点にスコット隊3人を発見したが、亡き者であった。
● 狂信的な規律(自制心)
本質的な規律とは「へたな組織への忠誠、軍隊的な一時的統制、成果の測定」とは違う、「行動の一貫性、一貫した価値観、一貫した長期目標、一貫した評価基準、一貫した方法」である。本物の規律を守るためには外部からの圧力を跳ね返すだけのぶれない軸、独立心が欠かせない。卓越したリーダーにしてみると正当な規律形態は「自己規律」、どんな困難にも立ち向かい、何が何でも偉大な成果を生み出そうとする強い意思、これが自己規律である。
プログレッシブ保険の名物社長ルイス、取締役会では仮面をつけてウィリアムテルの音楽で登場したり、常にメディアでも取り上げられる。そんな風変わりでとっぴな行動を取るルイスは全身全霊をかけて達成したものが「ルイスなしの偉大な会社」に育てたこと。強烈なエゴを併せ持つ個人が、その野心が何よりも大儀のため、会社のため、仕事のためにあり、自己利益のためではないことに人間的成熟度が必要である。
「二十マイル行進」
どんなに天候に恵まれていようが、どんなに困難な環境であろうが日々日々20マイル行進することを実現していくことことが偉大な組織への道に欠かせない。一貫した成長のためには、1.越えなければならない最低のハードル(目標達成のための野心、厳しい状況下でも断固として高い成果を出さなければならないという苦痛)、2.それ以上越えてはならない最高限度(行き過ぎ防止、快適な状況下でも自制しなければならないという苦痛)を守り続けられる自制心が必要でこれは軌道を外れないという工程表のようなものである。ストライカーやサウスウエスト航空、インテル、プログレッシブのように、15-30年にわたって一貫したペースで着実に進むと公約できるものか。
● 実証的想像力
「長期的な市場の覇者」と「先駆的なイノベーション企業」の相関関係を分析した、先駆的なイノベーション企業で最終的に市場の覇者として競争に勝ったのは9%。カミソリの覇者ジレットとスター、インスタントカメラの覇者ポラロイドとデュブローニ、表計算ソフトの覇者マイクロソフトとビジコープ、アマゾンは決してオンライン書籍の先駆者ではないし、AOLもプロバイダーの先駆者ではない。逆にイノベーション企業の64%が完全に失敗している。(しかし留意してほしいのはどんな環境下でも脱落せずに競争し続けるためには最低限達成しなくては習い、イノベーションの閾値は存在する、言い換えればその閾値を越えてイノベーションし続けてもあまり意味がないと推測できること)
インテルの飛躍には「インテル・イノベーツ」よりも「インテル・デリバーズ」である。これは「インテルは少なくともイノベーションの閾値を達成する。その後は狂ったように完膚なきまでに徹底的に供給する、コストを抑えながら、並外れた信頼性と一貫性を売り物にして、イノベーションの成果をきちんと顧客に送り届ける。」世界のインテルは、AMDとの戦いに、この狂信的とも言える姿勢で臨み勝利を収めた、一方敗れたAMDは出来なかった言い訳が残るだけだった。
・イノベーションの閾値を実感してから一気呵成 「銃撃に続いて大砲発射」
海戦で敵船から攻撃を受ける、火薬の在庫は限られる。むやみやたらに大砲を打っては火薬がそこをつき死を待つのみ、そこで採るのが、火薬の一部を使って銃撃をする目標から40度外れた、再び調整して少ない火薬で銃撃する、今度は30度外れる、再び火薬をつめ銃撃する今度は10度外れた、もう一度、やっと命中した。そこで大砲の準備である。この砲撃によっては敵船は沈み、あなたは生き残る。
・銃撃に続いて大砲発射の中にも狂信的規律(自制心)
プログレッシブの歴史を紐解くと精度未調整の大砲利用禁止を狙いにしたガイドラインにほぼ一貫して従ってきたことが分かる。持続的利益成長を確実にするため調整を終えるまでは、新規事業の割合を全収入の5%以下に抑える。
● 建設的パラノイア 1996年のエベレストの悲劇と快挙。アムンゼンとスコットの物語のような対照的な二つのベテラン登山隊ブリーシャーズとホールが同じ日に登頂を目指す、ブリーシャーズはIMAX映画を撮影するという快挙を成し遂げたがホール隊は生きて下山することはなかった。
ブリーシャーズ隊が途中一度下山するという重要な判断をしたことに注目するのは容易だが、その重要な判断ができる周到な準備をブリーシャーズが登山開始の数ヶ月前から行っていた。例えば、一回の登頂で必要以上の酸素ボンベ、エベレストに三週間よけいにいても困らないほどの補給品。ホール隊は登頂一回分の酸素、補給品しか持たず一旦引き返すことは登頂が出来ないことを意味していた。これはアムンゼンとスコット隊の所持した食料の差と同じである。
ブリーシャーズの取り組みは、突発的な変化が猛スピードで破壊的に訪れるとの前提で行動している。状況の変化に過敏に反応し、常時「もしこうなったら?」と自問している。1.事前に準備する、2.補給品の蓄えを充分確保する、3.非合理といえるほど充分に安全余裕率を高くする、4.リスクを抑える、5.良いときでも悪いときでも規律に磨きをかけるを徹底することで強靭で柔軟な態勢を維持しながら危機と向き合う。
「余裕の酸素ボンベ」とは企業で言う充分なキャッシュであり所持キャッシュに厳格なルール規定を作り規律をもってルールを維持すること。
「リスクを抑える」とは銃撃の後の大砲射撃であり、キャッシュの維持ルールを厳格に守ることであり、景気のいいときでも20マイル行進に徹することである。
「ズームアウトに続いてズームイン」とは大局を見ながら細部も見る。大局とは状況の変化を察知する、時間的評価はリスクの性質が変化する前にどのくらいの猶予があるのか、新しい状況へ適応するには、それまでの計画を棚上げする必要があるのか。そして細部とは完璧に計画を遂行し、目標を達成する。
「人生の瞬間は全て同等ではない。」卓越したリーダーは、決定的な瞬間を認識する能力がある、状況が変化すれば好機であれ危機であれ、当初の計画を破棄したり、仕事の焦点を変える、その時に余分な酸素ボンベを持っていることで選択の幅は広がる。人選の瞬間は重要な瞬間もあれば、それほど重要でない瞬間もある。1911年はアムンゼン、1996年5月はブリーシャーズ、2001年のサウスウエストにとって決定的な年で人生で最も働いたときだった。
● 具体的で整然とした一貫レシピ
サウスウエストののルールは、
1、二時間以内の近距離路線に徹する
2、10-12年にわたって主力機として中型機B737を使い続ける
3、航空機稼働率を高く維持する。ゲートターンは迅速に、出来れば10分以内にする。
4、乗客は我々にとってNo1の商品。航空貨物や郵便物は運ばない。利益率が高く取り扱いコストが低い小包は例外。
5、引き続き航空運賃を低くし、できるだけ多くの運行便を維持する
6、機内食サービスは手がけない
7、他社との乗り継ぎなし、発券、空港税、コンピューター関連コスト。我々の空港は独特であり他社との乗り継ぎには適さない。
8、テキサスがナンバーワン市場。需要が大きい近距離路線市場がある場合に限って州外にも就航する。
9、家族と人間を感じさせるサービスとともに、楽しさを感じさせる雰囲気を維持する。
10、出来るだけシンプルでいく。航空券の代わりに売上伝票書、搭乗口でコーヒーとドーナツは無料提供。全席自由席。航空機と乗務員は毎晩ダラスへ戻す、本拠地と整備工場は1つだけにする。
以上、パトナムCEOのリストは25年で20%前後しか変更していない。もちろん一方でインターネット予約を導入したり、2時間以上の便を就航したり、乗り継ぎに対応したりと進化も遂げている。リストの進化よりその一貫性に着目したい。それをSMaCレシピと呼ぶ。
1.Specific具体的である、2.Methodical整然としている、3.そしてand、4.Consistent一貫している。
運
世界は無秩序で不安定、どの企業が勝ち残り、敗退するのかを決めるのは環境ではない。人間である。人間は狂信的に規律を保つ。人間は実証的で創造的。人間は建設的なパラノイヤになれる。人間は指導力を発揮してチームを作る。人間は組織を築き、文化を育む。人間は理想を示し、目標を追求し、人生を懸けた大目標「BHAG不可能なぐらい高い目標」を達成する。よき助言者、良きパートナー、良きチームメイト、良き指導者、良き友人を見つける運。あらゆる種類の運のうち人間運が特に重要だ。
幸運の流れに乗る最良の方法は、偉大な人たちと一緒に泳ぐことだ。あなたが命を懸けてもいいと思える人たちがいる。あなたのために命を懸けてもいいと思ってくれる人がいる。そんな人たちと永続的で深い関係を築くということが肝心である。
カナダ生まれのアイスホッケーの選手を対象に誕生日とスター選手の関係を取り上げた研究書。年後半に生まれた選手は前半に生まれた選手よりも成功しにくい。1月1日を基準とすると年初に生まれた子は年末に生まれた子に比べたい核的に有利である、学年があがるたびに有利な立場からスタートする、コーチからより注目を集める、複利的に資産が増えていくかのように成功を掴んでいく。実際NHLの選手の70%が前半生まれ、30%は後半生まれ。しかし、更に詳細にデータを分析すると。殿堂入りするさらに偉大な選手達の生まれた時期を観察すると、50%対50%となる。これは圧倒的数の少ない後半にうまれた選手の方が伝道入りする確立が圧倒的に高いということである。ここでいえるのは、我々は皆不運と隣り合わせであるが、不運と向き合い、人生でおきた最高の出来事の一つにかえてしまうことが卓越したリーダーのやり方である。
ブリシャーズがエベレスト登頂に際し隊員選び徹頭徹尾こだわったのは、「登山隊の力量は最も弱い隊員の力量と同じ」という格言に従ったためである。2002年サウスウエスト航空は昨年20万人に上る求職者から応募を受けた採用したのは6千人、ハーバード大学よりも狭き門であった。プログレッシブは競争に打ち勝つための最重要戦略として有能な人材採用を挙げた。そして誇らしげに「我が社では15人が依願退職した。そして全員が他の保険会社の社長となった」と指摘する。ビルゲイツはいう「我々が最高の人材を20名失ったとしよう、マイクロソフトは取るに足らない存在となるだろう。賭けても良い」
最後に偉大な企業は一件相反する事柄でさえ常に叶える考えを文化としてもつ
規律と創造力、実証的有効性と大胆な行動、警戒心と不可能なぐらいの高い目標、パラノイアと果敢、とてつもなく野心的と自己中心的ではない、厳格な評価基準と決して行き過ぎない自制心、二十マイル行進と銃撃に続いて大砲発射、イノベーションの閾値と流行おくれ、未来を予測できないと予測不可能な未来に備える、可能ならばゆっくり進むと必要ならば素早く進む、規律ある思考と断固とした行動、ズームアウトとズームイン、SMaCレシピの厳守と変更、一貫性と変化、決して運に頼らないと運に遭遇したら高いリターンを実現。